2024年10月の法改正により、社会保険(厚生年金保険・健康保険)の適用範囲が「従業員数51人以上」の企業へと拡大されてから、およそ1年が経過しました。
ニュースや新聞で「パートも社会保険加入義務化」や「年収の壁」といった話題が頻繁に取り上げられたことで、多くの経営者様の頭には「パートタイマー=社会保険加入」というイメージが定着しつつあるかもしれません。
しかし、従業員数が51人未満の企業においては、現時点でもこの「新しい加入ルール」は適用されていないことをご存じでしょうか。
「ウチもそろそろ対象になるのでは?」「次の改正で全員加入になるのではないか?」 そのような不安を感じている経営者様も多いはずです。
しかし、制度の仕組みを正しく理解していれば、過度に恐れる必要はありません。
今回は、従業員数51人未満の会社が現在守るべきルールと、将来のリスク管理のために知っておくべき「51人の壁」の正しい判定方法について解説します。
従業員数51人未満の企業のパートの社会保険加入条件とは
結論から言うと、従業員数が51人未満の企業には、いわゆる「106万円の壁(週20時間以上勤務などの要件)」は適用されません。
世間で騒がれている「月額8.8万円以上」や「週20時間以上」といった細かい基準は、あくまで51人以上の規模の会社に向けたものです。
では、51人未満の会社は何を基準にすればよいのでしょうか。
基準はあくまで「4分の3基準」
51人未満の会社が判断基準とすべきなのは、従来からある「4分の3基準」です。
これは、正社員(通常の労働者)の1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数の「4分の3以上」働いているかどうか、という基準です。
一般的な企業の正社員が週40時間・月20日勤務であると仮定した場合、その4分の3である「週30時間以上かつ月15日以上」働いているかどうかが分かれ目となります。
つまり、基本的には労働時間が週30時間未満かつ月15日未満であれば、現行のルール上、社会保険への加入義務は発生しません。
※もし正社員の所定労働時間が週40時間ではなく「週32時間」などの短い設定になっている場合は、基準が変わります(例:32時間 × 3/4 = 週24時間以上の人が対象)。
複雑な要件の考慮は不要
従業員数51人以上の企業に適用される「特定適用事業所」のルールでは、「賃金が月額8.8万円以上か」「学生でないか」といった複数の要件を確認する必要があります。
しかし、51人未満の企業においては、これらの細かい要件を考慮する必要はありません。
シンプルに「週30時間(および所定労働日数)の基準を超えているか」だけを見てください。
逆に言えば、もし週30時間以上働いているのであれば、学生であろうと、給与設定が低かろうと、原則として社会保険への加入が必要となります。
この「週30時間」というラインが、現在51人未満の企業における唯一にして最大の判断基準です。

「51人」の正しい数え方
「ウチは従業員がまだ10人程度だから関係ない」「パートを含めると60人いるから対象だ」 このように、従業員数の数え方を誤解しているケースが散見されます。
実は、この「51人」という数字は、単に会社に在籍している総人数を指すわけではありません。
「総従業員数」ではなく「現在の被保険者数」
厚生労働省の定義において、企業規模を判断する「51人」という数字は、「現在、厚生年金保険の被保険者である人数」でカウントします。
つまり、現在すでに社会保険(厚生年金)に加入しているフルタイムの従業員や、週30時間以上働いているパートタイマーの合計人数が対象となります。
例えば、総従業員数が100名いたとしても、そのうち60名が週20時間勤務のパートタイマー(未加入)であり、社会保険に加入している正社員が40名しかいない場合は、カウント数は「40人」となります。
この場合、企業規模要件である「51人以上」には該当しないため、週20時間勤務のパートタイマーを社会保険に加入させる義務は発生しません。
「51人」を超えた場合のリスクと注意点
ここで注意が必要なのは、会社の成長に伴い、正社員やフルタイムパートが増えて「被保険者数」が51人に達した瞬間です。 このカウントが51人以上(厳密には直近12カ月のうち6カ月以上で51人以上)になった時点で、会社は「特定適用事業所」となります。
すると、それまで対象外だった「週20時間以上・月額8.8万円以上」等の条件で働くパートタイマー全員に対して、一斉に加入義務が発生します。
「うっかり51人を超えていた」という事態を防ぐためには、毎月届く社会保険料の納入告知書などを確認し、現在の被保険者数が何人になっているかを定期的にチェックすることが重要です。

まとめ
現状、従業員数(被保険者数)が51人未満である限りは、週30時間未満のパートタイマーへの社会保険加入義務はありません。
正しい判断をするためにも、まずは自社の「現在の被保険者数」と、パートタイマーの「労働時間(週30時間基準)」を正しく把握してください。
ただし、政府の社会保障審議会などでは、将来的には「企業規模の要件そのものを撤廃し、全ての事業所に適用する」という方向性も議論されています。
これは決して悲観的な未来ではなく、働く人々にとってはセーフティネットが強化されるという側面もあります。
経営者としては、「51人の壁」を超えた際や、将来的な法改正に備え、今のうちから「週20時間ルール」が適用された場合のコスト試算や、働き方の提案(労働時間の延長や抑制など)をシミュレーションしておくことが、会社を守るリスク管理となるでしょう。
「自社が今51人のカウントに含まれるのか不安」「将来を見据えて就業規則を見直したい」などのご相談は、諏訪労務管理センターにお任せください。
私たちは社労士と会計事務所グループの連携によるワンストップ体制で、労務管理と経営をトータルでサポートいたします。