毎月の給与に「固定残業代」や「みなし残業代」が含まれている、という方は少なくないでしょう。
この制度は、名称を問わず「一定時間分の時間外・休日・深夜労働の割増賃金を、あらかじめ定額で支払う」ものであり、会社にとっては残業代計算という負担の軽減につながり、従業員にとっては残業が少ない月でも収入が安定するなど、双方にメリットがある仕組みです。
一方で「固定残業代を払っているから、いくら残業させても追加の支払いは不要」といった誤解が生じることもあり、労使間のトラブルに発展するケースも多くあります。
もし、制度を正しく理解せずに運用してしまうと、後から多額の未払い残業代を請求されるリスクも潜んでいます。
そこで今回は、固定残業代制度を導入する際に、企業が注意すべきポイントについてご紹介します。
固定残業代導入の注意点は何か
通常賃金と金額時間数を明確に区分する
固定残業代制度を有効なものとするためには、まず給与の内訳を明確に区分することが大前提となります。
具体的には、
①通常の労働時間に対する賃金(基本給など)と、②固定残業代にあたる部分の金額とをはっきりと分けなければなりません。
例えば、給与明細や雇用契約書に「月給30万円(固定残業代を含む)」とだけ記載されているケースは、①と②が明確に区別されておらず無効と判断される可能性が高いです。
正しくは、「月給30万円(基本給25万円、固定残業手当5万円(時間外労働〇時間分)を含む)」のように、「固定残業代の名称」、「金額」、「性質(時間外・休日・深夜など)」を明記しておく必要があります。
就業規則への規定・従業員への周知
固定残業代制度は、会社が一方的に導入できるものではありません。
制度として有効に機能させるためには、まずは就業規則や賃金規程に固定残業代に関する定めを設ける必要があります。
具体的には、以下の項目を明記しましょう。
・固定残業代の手当名称
・対象者
・対象となる残業の種類(時間外、深夜、休日など)
・何時間分の残業代に相当するか
・計算方法(割増率、時間単価の算出方法など)、金額
・固定残業時間を超える残業が発生した場合は、別途法定の割増賃金を支払う旨
そして、有効な制度とするためには、固定残業代について就業規則に定めるだけではなく、従業員にきちんと周知することが不可欠です。
さらに、雇用契約書や労働条件通知書にも記載し、会社と従業員側の認識を一致させておくことが、後のトラブルを防ぐ上で極めて大切になります。
設定時間を超えた残業代は別途支払う
固定残業代制度に関する最も多い誤解が、「定額を払えば、それ以上残業代を支払う必要はない」というものです。
しかし、これは明確な誤りです。
固定残業代は、あくまで「あらかじめ定めた一定時間分」の残業代を前払いする制度にすぎません。
したがって、もし実際の残業時間が、固定残業代として設定された時間(例えば30時間)を超えた場合は、その超過した時間分の割増賃金を別途支払う義務があります。
したがって、企業は固定残業代制度を導入したとしても、従業員の労働時間を管理する義務から解放されるわけではありません。
タイムカードなどで日々の労働時間を正確に把握し、設定時間を超えた残業の有無を確認し続ける必要があります。

固定残業代の時間や金額はどう決めるか
残業時間は月45時間を上限の目安とする
固定残業代として設定する時間数について、法律で上限が定められているわけではありません。
しかし、労働基準法の第36条で定められた時間外労働の上限が、原則として「月45時間」であることを踏まえると、この時間を一つの目安と考えるのが妥当です。
なお、過去の裁判例では、月80時間の固定残業代の設定は、公序良俗に反し無効と判断されたケースもあります。
あまりに長い時間を設定すると、制度そのものが無効とされてしまうリスクがあるため、目安を超える設定は避けるべきでしょう。
金額は法定の割増率で算出した額以上に設定する
固定残業代の金額は、会社が自由に設定できるわけではありません。
設定した時間分の残業代を、労働基準法で定められた計算方法で算出した金額以上に設定する必要があります。
残業代の基本的な計算式は「1時間あたりの賃金×割増率×残業時間」です。
固定残業代の金額が、この計算式で算出した額を下回っている場合、その差額分は未払いと見なされます。
例えば、計算上5万円になるはずの残業代を「固定残業代4万円」として支給することは認められません。
必ず法定の基準を満たす金額を設定しましょう。
既存社員への導入は不利益変更に注意する
すでに働いている従業員に対して、新たに固定残業代制度を導入する場合は特に注意が必要です。
例えば、これまで「基本給40万円」で支給していた給与を、総額は変えずに「基本給35万円+固定残業代5万円」といった形に変更するケースを考えてみましょう。
この変更は、実質的に基本給を引き下げることを意味します。
基本給は賞与や退職金、そして固定時間を超えた残業代の算定基礎となるため、従業員にとっては「不利益変更」にあたります。
労働条件の不利益変更を行うためには、就業規則を変更するだけでなく、従業員一人ひとりから個別の同意を得ることが原則として必要になります。
十分な説明なしに一方的に変更すると、深刻なトラブルに発展する可能性があります。

まとめ
固定残業代制度は、正しく運用すれば労使双方にメリットのある制度です。
しかし、その導入と運用には、いくつかの注意点が存在します。
ポイントをまとめると以下の通りです。
・通常の労働時間の賃金と固定残業代(金額・時間数)を明確に区分すること
・就業規則に規定し、従業員の合意を得ること
・設定時間を超えた残業代は必ず追加で支払うこと
・設定時間は月45時間を目安とし、法定の計算方法に基づいた金額にすること
・既存社員への導入は不利益変更にあたる可能性があるため、慎重に進めること
これらのルールを守らずに導入してしまうと、制度自体が無効と判断され、後から高額な未払い残業代の支払いを命じられるリスクがあります。
制度の導入を検討する際は、専門家のアドバイスも受けながら、慎重に進めることが大切です。
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